頭蓋底髄膜腫について知る


図1 頭蓋底とは
頭蓋底髄膜腫についての図-1
頭蓋底髄膜腫についての図-2

髄膜腫は本来脊髄を取り囲み保護している膜である髄膜から発生した腫瘍で、ほとんどの髄膜腫は良性腫瘍です。癌とは異なります。これらの腫瘍は大変ゆっくりと成長するので、必ずしもすべての髄膜腫が早急に治療が必要なわけではありませんが,通常硬膜に付着して発育する良性腫瘍なので、治療は摘出術が基本となります。髄膜腫は,特に発生した部位によって症状や適切な治療が異なります。頭蓋底髄膜腫(ずがいていずいまくしゅ)の場合は,腫瘍付着部の硬膜を,脳神経,主要な動脈や静脈,下垂体茎などの重要構造物が内部を走行していたり,海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)などの静脈洞壁を構成していることもあり,付着部硬膜を含めた摘出が困難なことも稀ではなく、さらには静脈洞内部や頭蓋底部への骨浸潤さらに側頭下窩と呼ばれる頭蓋外への進展もあり,頭蓋底髄膜腫の治療方針決定は複雑であることを理解する必要があります。

髄膜腫とはなんですか?

髄膜とは脳と脊髄を取り囲み保護している3層構造の膜のことで、最も外側から内側へ向けてそれぞれ;硬膜,くも膜,上衣の3層です。髄膜腫は,3層のうち中央の層であるくも膜内部のくも膜間細胞;arachnoid gap cellより発生し,ほとんどの場合硬膜と癒着しています。
頭蓋内脳腫瘍の30%を閉める髄膜腫は,その9割がテント上に発生します。発生部位と病理組織により分類が可能です。その生物学的悪性度によって3つに分類され、予後予測に役立ちます。脳や血管へ侵入するもの,神経や血管に癒着性のもの、繊維性組織に富むものは悪性髄膜腫の所見です。ほかにも髄膜腫はのう胞を含んでいたり,石灰化した沈着物を伴っていたり,何百もの小さな血管を巻き込んでいたりします。
髄膜腫は,頭蓋内で内側へ内側へと成長する傾向あり,一般的には脳と脊髄に対して圧迫を加えて行きます。まれではありますが,髄膜腫は頭蓋外へも成長することがあり,その場合皮膚組織が厚く腫脹してきます。髄膜腫は大変ゆっくり成長するため,症状が明らかとなるまで何年もかかることがあります。

髄膜腫の摘出度合いと再発率

髄膜腫の摘出度合いと再発率に関しては,シンプソンの分類が一般的に用いられており,G1; 発生した硬膜,近くの骨浸潤部を含めた肉眼的全摘出、G2; 腫瘍の肉眼的全摘出と発生した硬膜,近くの硬膜浸潤部の焼却,G3; 腫瘍の肉眼的全摘出のみ,G4;腫瘍の亜全摘出,の四つに分類されます。このシンプソンの分類は,髄膜腫の摘出術後の再発のリスク評価基準として重要です。それぞれ術後5-20年の時点で、G1; 9%, G2; 19%, G3; 29%, G4; 44%で再発がありうることがわかっていますので、少なくとも腫瘍を肉眼的には全摘出できることが非常に重要であることがわかります。

髄膜腫の症状とはなんですか?

髄膜腫の症状はその所在と腫瘍の大きさにより異なります。徐々に成長した腫瘍による高度の圧迫のために頭痛や癲癇発作で見つかることが多いようです。手足の筋力低下や感覚低下は,頭蓋頸椎移行部髄膜腫の場合起こることがあります。髄膜腫はその部位と症状がおのおのことなりますので、後に治療指針とともにお話いたします。

髄膜腫の原因はなんですか?

多くの神経科学者が研究しておりますが,正確な原因は依然不明です。多くの学者たちも,異常形成された染色体と髄膜腫の発生が関連があることは認めています。神経繊維腫症2型を持つ方々が,髄膜腫を発症しやすいことも事実です。悪性髄膜腫を持つ方々の多くで,NF2遺伝子の高率な突然変異が見られます。

誰が髄膜腫を発症しやすいのですか?

誰が髄膜腫を発症しやすいのですか?
髄膜腫は全脳腫瘍の20%を占め、全脊髄腫瘍の12%を占めます。これらは子供にも起リますが,最も多いのは40歳から60歳代の大人です。ほとんどの髄膜腫は良性で癌ではありませんが、10%弱の髄膜腫は悪性のものです。悪性の髄膜腫は男性にも女性にも起りますが,良性の髄膜腫は女性に多いことが知られています。

どのようにして診断するのですか?

まず第一に医師はあなたの過去の病歴,ご家族の病歴そして一通りの理学的診察を行います。一般的な健康状態をチェックするだけでなく神経学的な診察を行います。この中には意識状態,精神状態,記名力,脳神経;視力,聴力,嗅覚,舌や顔の動き,筋力の強さや協調運動,反射,痛み刺激に対しての反応などが含まれます。もし何らかの神経学的異常が見つかれば,医師は神経放射線学的検査;CTやMRIをオーダーし,もし腫瘍であるならばそのサイズ,位置、タイプを把握します。頭蓋骨エックス線写真は腫瘍が骨を浸潤している場合に役立ちます。脊髄腫瘍の場合は,ミエログラムと呼ばれる脊髄上で検査を行います。症例によっては血管造影と呼ばれる,脳脊髄血管のエックス線写真が必要になります。最終的な診断は,組織生検によってのみ得られます。

どのような治療があるのですか?

髄膜腫をおもちの患者様には,多くの多彩な治療があります。どの治療があなたに最も適切であるかは、あなたの年齢,全身健康状態そして腫瘍の場所とサイズによります。それぞれの治療には,得られる効果とリスクと副作用があります。腫瘍選択の前にこれらのことを治療ごとに正確に理解しておく必要があります。

経過観察

髄膜腫は非常にゆっくり成長するので、腫瘍をお持ちで特に高齢の方の場合は外科手術による摘出の代わりに,経過観察を勧めすることがあります。医師は腫瘍の成長を、毎年ごとのMRI検査にフォローし,何らかの新しい症状にお気づきの場合は早急に医師に報告する必要があります。

外科手術治療

外科手術は,髄膜腫治療において最も一般的なものです。頭蓋骨を開頭し、腫瘍を摘出するわけです。全摘出は理論的に良性髄膜腫の治癒を意味しますが,完全摘出は常に可能とは限りません。髄膜腫の場合、腫瘍の発生部位が特に、いかに安全に腫瘍をとり切ることができるか。もし全摘出できない場合,複数の治療を併用することができます。残存腫瘍に対しての補助放射線治療です。特に頭蓋底部髄膜腫の外科治療は,頭蓋底部に多くの脳神経の出入り口,内頸動脈やさまざまな静脈洞があり,これらが頻繁に浸潤されているために,複雑な課題となります。頭蓋底の奥深くへ安全に到達するためのさまざまな頭蓋底アプローチの併用,腫瘍摘出における種々の手術支援システムの利用、補助療法としての術後定位放射線治療が常に準備されていることが必須となります。

放射線治療

腫瘍のうちいくつかのものは,呼吸や言語機能をつかさどる脳幹や大脳のセンターに近い場所では手術不能となる場合があります。そのほかにも手術後に再発してくるものや,残存腫瘍が再増大するものがあります。こうした場合には,一般的な分割照射による放射線治療か定位放射線によるガンマナイフがあります。

分割照射による放射線治療

通常の放射線治療は高エネルギー放射線を用いて腫瘍を治療します。総照射線量は,何回にも分割して,フェイスマスクを用いて正確に腫瘍の位置を同定しそれぞれの治療セッションごとに頭部を正確に位置づけして行います。この治療において放射線はコンピューター制御により腫瘍の形状を正確に反映するようにデザインされ放射されます。放射線治療によって通常腫瘍効果が高い腫瘍の場合は,下垂体線腫、髄膜腫,頭蓋咽頭腫などですが,3次元再構成放射線治療を行うことでより少ない早期のまたは遅発性の副作用を軽減できます。

定位放射線治療/ガンマナイフ

定位放射線ガンマナイフ治療は,非常に濃縮され,精密にデザインされた放射線を1回のセッションで腫瘍を治療するために行います。あと1回の放射線手術線量が,多分割された通常照射よりも標的組織に対する効果を大きくするために,標的組織を正確に同定され完全に定位脳手術フレームに固定されていなければなりません。ガンマナイフ手術と呼ばれますが,皮膚切開は必要ありません。治療は半日または1日がかりですが,腫瘍を正確に同定し,照射線量プランを練り上げて、実際の照射が行われます。治療効果は数ヶ月から1ー2年を必要と、急激な効果はありません。徐々に病変が成長するのをやめ,縮小して行きます。ガンマナイフ治療は,髄膜腫治療に効果があることが実証されており,手術困難あるいは不可能な部位の髄膜腫治療に大変有効であります。